「リングフィット アドベンチャー」を購入して30日間運動を続けられたので「これはすごいゲームだ!」と思い、何がすごいかを書き記しました。先に目次を置いておきます。
まえがき
2020年8月下旬、「リングフィット アドベンチャー」を買いました。
「冒険しながら、フィットネス」と銘打った Nintendo Switch 用ゲームソフトです。
購入から30日、毎日運動しています。
いかに凄いことであるかは、使用者である私のプロファイルを読めばご理解いただけるでしょう。
使用者のプロファイル
- 在宅ワーカー(フリーランス)
- デスクワーク
- 趣味はゲーム
- 1日平均数百歩しか動かない
- 日用品、食料品の買い出しは夫任せ
- 家事もほぼしない
- 仕事や通院など、必要最低限の用事でのみ外出(平均週1回)
- 月に一度も外出しなくても平気
- できる限り外に出たくない
- できる限り運動をしたくない
- 痩せたい、筋力をつけたいなどの積極的な意思はゼロ
このような人物が、そもそも「リングフィット アドベンチャー」を購入したこと自体が異例の事態です。
かつて、「リビングでフィットネス」のキャッチコピーで「Wii Fit」というゲームが発売されました。2007年のことです。
専用の「バランスボード」を使用して、家にいながらトレーニングができる、というコンセプトのゲームでした。
当時、私は「へぇ、母が好きそう」という程度の感想しか持たず、もちろん購入もしませんでした。
「Wii Fit」が発売される遥か昔から私は運動が嫌いです。
「私はゲームがしたいのであって運動がしたいのではない。」
フィットネスやトレーニングを目的としたゲームタイトル全般に対する私の強い思いは、「リングフィット アドベンチャー」が発売された2019年10月18日にも、変わらず確固たる意思として私の中に根付いていました。
デスクワーク中心の同業者たちが「買った! いいよこれ! すごいよ!」と絶賛しているのを聞いても、「いやいや、私はゲームがしたいのであって運動がしたいのではないですから。」と頑なにスルー。
そうこうしているうちに、COVID-19が世界的な猛威をふるい、日本中の人々が外出自粛を余儀なくされたのでした。
ジムに通えなくなった筋トレマニアたちをはじめとして、運動不足が不安になった人々がこぞって「リングフィット アドベンチャー」を購入するようになりました。
「小学校も休みになってしまって、子どもたちに運動させたほうがいいかもしれないなー」と思った時には、すでに「リングフィット アドベンチャー」はどこへいっても品切れ、抽選販売を待つのみとなっていたのです。
そのまま子どもたちの休校が解除されたため、「リングフィット アドベンチャー」を買う必要もなくなりました。
この私がなぜ、「リングフィット アドベンチャー」を購入し、30日以上も継続できたのか。
私の心境に驚くべき変化があったからでも、毎日コツコツ努力したからでもありません。
任天堂がすごかったんです。
任天堂の作った「リングフィット アドベンチャー」には、「できる限り運動せずに過ごしたい人」に運動を続けさせる工夫が、丹念に練りこまれていたのです。
そもそもなぜ購入したのか
先に述べたとおり、COVID-19の影響を受けて、外出自粛が唱えられるようになりました。
強制的に外出する機会となっていた様々なイベントもオンライン開催されるようになり、仕事の打合せも可能な限り対面を避けるようになっています。
まず外へ出る準備をするのがめんどうなのに、外出した先でも感染予防でマスクをしたり消毒をしたりと、手間のかかることも増えました。
これらの相乗効果により、私の生活は、より一層外へ出ず、椅子に座りっぱなしの時間も長くなっていました。
ところが、私自身はそれが全く苦にならないのです。
もちろん肩凝りや腰痛の心配はありましたが、そこは「高性能な椅子」を購入することでカバーしています。運動不足で太ったかも、と思ったら食べる量を減らします。そういうタイプです。
だからこそ、強制的に外出する機会が重要だったのですが、先に述べたとおり、それも激減してしまいました。
そんな生活が何ヶ月も続き、立ち上がるたびに立ちくらみ、たまに外出すると夕方にはへとへと、という有様。
なんだか脚の筋力も衰えた気がします。
このままではごく普通の日常生活にも支障が出てしまうのでは! と危機感を持った私は、ついに、巷で噂の「リングフィット アドベンチャー」の購入を決めたのでした。
大いなる目的は「最低限日常生活を送るのに必要な筋力を維持する」こと。
「リングフィット アドベンチャー」の優れた点
大いなる目的のために「リングフィット アドベンチャー」を購入した私でしたが、やっぱりできる限りつらい運動はしたくありません。
「がんばって痩せたい!」とか「筋力をつけて魅力的なボディを手に入れたい!」みたいな気持ちは持てません。
「しんどかったら毎日は続けられんかもしれん。」
始める前から弱気です。
ところが、先に述べたとおり、「リングフィット アドベンチャー」は、私のような人間がどうすれば運動を続けられるか、を徹底的に考え抜いて作られたゲームだったのです。
そこには膨大な工夫の数々があるわけですが、ポイントは大きく分けて4つ。
- 私はゲームがしたいのであって運動がしたいのではない。
- まず外へ出る準備をするのがめんどう
- 目的は「最低限日常生活を送るのに必要な筋力を維持する」こと
- しんどかったら毎日は続けられんかもしれん
これらは私が「リングフィット アドベンチャー」を始めるまでに抱いていた実際の「気持ち」を抜き出したものです。この「気持ち」にフォーカスを当てながら、工夫を紐解いていきたいと思います。
発売後に公開されたインタビューなどで開発者自らが解説しているポイントと重複するものがあるかと思いますが、今回は私感ということで、そのまま書かせていただきます。
1.「私はゲームがしたいのであって運動がしたいのではない。」
「リングフィット アドベンチャー」は、たしかに運動がベースのゲームでしたが、ただ「運動」するためのマシンと違って、敵を倒すためのバトルがあります。
バトルでは、自分で選択したトレーニングを行って敵を攻撃します。
それぞれのトレーニングには「攻撃力」があり、基本的に、しんどいトレーニングほど高い攻撃力を持っています。
敵を倒したり、トレーニングを行うと経験値が溜まり、プレイヤーのレベルが上がっていきます。
レベルが上がるとより強い(つまりよりしんどい)トレーニングを選べるようになるのです。
私なんかは、「こ、このトレーニングはしんどいけど、使えば一撃であれを倒せる……2回トレーニングするよりマシ……」となって、まんまとしんどいトレーニングをやってしまうわけです。
シナリオもあります。
王道のオーソドックスなシナリオですが、自分の積み重ねできちんと物語が進行していく、変化していく安心感があります。
ただトレーニングのメニューだけ与えられて、「順番にこなしていきましょう!」と言われても、そもそも運動したくない人は続かないでしょう。
かといって、ミニゲームレベルの簡単なアクションでは、「運動」にならず、ただの「ゲーム」です。
ただ「ゲーム」として楽しむのであれば、座ってのんびりやりたいゲームが他に山ほどあります。
ちょっとでも「運動」するために購入したものですから、やはり「運動」をした効果を得たい、という思いもあります。
その辺のバランスがよく練られているなぁー、と、しんどいトレーニングにヒィヒィ言いながら、感心してしまいます。
もうひとつ、ふだん運動しない人向けの嬉しい機能として「ミブリさん」があります。
「ミブリさん」は汎用的な人型のキャラクターで、プレイヤーと同じようにリングコンを手にしています。
のっぺらぼうなので表情はわかりませんが、なんとなく親しみをもてる印象で、シンプルな運動着姿です。
プレイヤーが様々なトレーニングを行う時、必ず画面内に現れて、同じ動作をやって見せてくれます。
要はお手本です。
どこをどう動かせばいいのか、理想的な姿勢はどうなのか、どのくらいのスピードでやればいいのか、初めてでも、初めてじゃなくても、わかりやすく示してくれます。
「最初にお手本を見せてくれる」みたいな一時的なものではなく、トレーニングの間はずっと一緒に動いてくれるので、仲間意識すら芽生えてきます。
「ミブリさん」の他にも、トレーニングの際にはいつも別の「声」があって、気をつけるポイントや、どこを鍛えているのかなどをTIPSのように教えてくれます。
TIPSは画面上に文字としても表示されるので、運動しながら「ミブリさん」を見ただけでは分からないようなポイントも意識できます。
ふだん運動をしない人は、「そもそも何をどうしたらいいか分からない。これ、合ってる?」という状態になりやすいはずです。
やり方が間違っていると楽にできてしまったり、必要以上にしんどい動作で、意図した効果が得られないこともあり得ます
それを防ぎながら、より効果的な運動ができるようにとサポートしてくれる機能が、細かく散りばめられているのです。
2.まず外へ出る準備をするのがめんどう
手軽な運動としてよく「ランニング」をおすすめされますよね。
有酸素運動です。器具も要らず、身体ひとつでできるし、体力もつきます。ジムに行くわけでもないのでお金もかかりません。
だからまず「ランニング」から始めましょう、というわけです。
でも大事なことを忘れています。
私は外に出る準備がすでにめんどうくさいんです。
その点、「リングフィット アドベンチャー」は外に出る必要がありません。
でもそれだけじゃないんです。このゲームが Nintendo Switch のソフトであることが大きな意味を持っていると、私は思います。
Nintendo Switch は、そもそもゲームを始めるまでのアクションがずば抜けて少ないのです。
本体を触る必要すらなく、コントローラーの電源ボタンを押すだけでテレビが勝手に起動し、チャンネルが切り替わり、前回プレイしていた状態の画面が表示されます。
ここまで1アクションです。
他のゲーム機であれば、ここまでに、本体の電源を入れる、テレビの電源を入れる、テレビのチャンネルを変える、で3アクション。
しかも操作の媒体が最低2つ必要です。
「リングフィット アドベンチャー」の場合はレッグバンドの装着が必要にはなりますが、これも、強力なマジックテープでペタッと留めるだけ。
「よし、やるか」という気持ちになってから、実際にスタートするまでに必要なアクションが少なく、実際に運動を始めるまでの準備時間もすごく短いのです。
3.目的は「最低限日常生活を送るのに必要な筋力を維持する」こと
私の目的はかように崇高なものでありましたが、運動の目的は人によって様々です。
しっかり運動して筋力をつけたい人や、ダイエットしたい人、ジムへ通う代わりにしたい人など、ハードな運動を目的としている人も多くいます。
そういう人たちがオススメするほどのハードなトレーニングが自分にできるんだろうか……と不安もありましたが、「リングフィット アドベンチャー」は、細かく負荷レベルを調整できるように作られていました。
およそまともな筋力はないと自認していた私は、最初に負荷レベル1からスタートしました。
アドベンチャーモードでは、負荷レベルの数値によって各トレーニングの回数が変わる仕組みです。
負荷レベルを上げると、同じダメージを与えるためにより多くの回数運動しなければなりません。
負荷レベルは、その日プレイスタートする時に「前回の運動はどうでしたか?」という形で質問が入り、楽だったら負荷レベルを上げたり、しんどすぎたら下げたりと、調整してもらえるようになっています。
全部で30段階と、かなり細かく分割されています。
実際には数値で決まっているけれども、数値で操作するのではなく「前回と比べてどうだったか」「どうしたいか」をベースに調整してくれるので、自分がやりたい運動のスタイルに合わせられるようになっているところが良いです。
調整できるのは負荷レベルだけではありません。
アドベンチャーモードでのバトルではトレーニングを1回行うごとに敵にダメージが入っていき、デフォルトの設定では敵のライフがゼロになった時点でトレーニングが終了してしまいます。
たとえば、左右を順番に鍛えるようなものだと、左を10回やって、右は5回で終わってしまった、みたいなことが起きてきます。
これも、トレーニングを最後までやり切る設定に変更可能になっています。
そうすると、敵の残りライフにかかわらず、あらゆるトレーニングを負荷レベルに連動した回数分こなさなければなりません。ちょっとハードになりますが、左右バランスよく鍛えられるようになります。
他にも、各トレーニングは大きく「腕」「腹」「脚」「ヨガ」と4つに分類されていて、どこに効く運動なのかがわかるようになっています。
また、それぞれに「姿勢改善」「肩こり解消」「美脚効果」といったタグがついていて、目的に合わせて選べるようにも工夫されています。
異なる目的を持ったプレイヤーたちが各々のやりたいレベルでやりたい運動ができるよう、細かくサポートしてくれる機能の数々。
ハードに鍛えたい人も満足できて、「最低限日常生活を送るのに必要な筋力を維持する」レベルの人でも楽しめます。
この幅広さが実現されるためには、相当細かく調整がくり返されたはずです。すごいことです。
4.しんどかったら毎日は続けられんかもしれん
そうは言ってもねぇ、やっぱり、毎日同じことをすると飽きますよねぇ。腹筋とか腕立て伏せとか、自宅でできるトレーニングが続かない大きな理由もそこにあるんですよ。
しんどいことを毎日同じように続けるのはたいへんなんですよ。
でもね、実は、「リングフィット アドベンチャー」って、毎日続けなくてもいいんです。
「アドベンチャーモード」をスタートさせると、起動するたびに「○日目です!」と表示してくれます。
何日が続けていると「毎日続いていますね!」と褒めてくれます。
でも、毎日続いてなくてもペナルティはありません。
実際私も、30日間続ける間に1日だけ、首を傷めて運動できない日がありました。
1日空いてしまったなぁ、と残念な気持ちで起動した日も、変わらず「○日目です!」と表示されていて、前日運動できなかったことには全く触れられませんでした。
そこからまた数日続けると「毎日続いていますね!」と褒めてくれました。
続くと褒めてくれるけど、続かなくても何も言われない。
「毎日やること」を強制されていない状態は、すごく大切だし、諦めないことに繋がります。
たとえば、毎日やってほしいゲームではよく「ログインボーナス」の制度があります。
ログインするたびに景品が貰えたり、連続でログインすることで景品がグレードアップする仕組みです。
こういうのって、ボーナスが途切れるとショックが大きいんですよね。
だからゲーム自体をプレイする暇がなくても、ログインだけはしておく、みたいな状態になっていきます。
それでもうっかりボーナスを貰い損ねてしまうと、もう嫌になってなかなか再開できません。
いままで溜めていたものが全部無駄になった、というイメージが強く作用するからです。
「リングフィット アドベンチャー」はそこを上手にフォローしてくれています。
続いている時に「続かなくても大丈夫です」というメッセージを積極的に送ってきます。
また、1日の運動量としても、運動しすぎてしんどくならないように早い段階で「今日はもう休憩しませんか?」とメッセージを出し、休憩を促すように設計されています。
これはかなり細やかな配慮です。
マンネリを防ぐ工夫もたくさん用意されています。
アドベンチャーモードでは、毎回最初と最後にストレッチが用意されていて、最初のダイナミック・ストレッチは毎回内容が同じです。
ただ、たまーに、ミブリさんがちょっと遅れて来たり、リングコンを忘れてきて取りに戻ったりといった、変わったシーンが見られます。
ストレッチに合わせて入る「声」も、セリフがすこし違ったりします。
同じことをするにも細かなバリエーションを用意して、マンネリを防ぐとともに、単なるトレーニングマシーンとなることをも防いでいます。
ここまでずっとアドベンチャーモードを中心に取り上げてきましたが、「リングフィット アドベンチャー」には他にも色んなモードがあります。
- ミニゲーム
- ハイスコアを目指す単純な運動
- 目的に合わせた運動のセット
- ランニング
- 自分なりにセットメニューを組んで行うカスタムモード
- リズムゲーム
色んなやり方で運動ができますし、短時間で区切って体を動かせるようになっています。
気に入った運動だけをピックアップしてやりたい、という要望も叶えられます。
各ゲームのスコアはフレンドと比較可能ですが、最初から比較表示されるわけではなく、フレンドのスコアは自分でアクションを起こさないと見られないようになっています。
これも、ふだん運動しない人(人と比べて運動できないと思っている人)に対するとてもいい配慮です。
他人と比べてがんばれる人もいれば、比べられると自信をなくす人もいます。
おわりに
私のような人間が、「最低限日常生活を送るのに必要な筋力を維持する」ための運動を30日間続けられたのは、ここまで述べてきた膨大な創意工夫の結果に支えられてのことです。
「運動するゲームを買う人は、運動したい人だろう」という考えで作られていたら、きっと私には合わないゲームになっていたでしょう。
今作のプロデューサー、河本浩一さんは、開発のきっかけについて、インタビューで以下のように述べています。
体育は本当に苦手でした。ゲームは大好きなので、「ゲームをしていたら、いつの間にか運動してしまっていた」みたいなゲームが欲しいな、と考え続けていたら、「RPGと相性がいいのでは?」、と思えてきたんです。
任天堂公式「開発スタッフに聞く『リングフィット アドベンチャー』」
このコンセプトを見事に形にされた、河本さんをはじめとした開発スタッフやテスターの皆さまの努力の賜物です。
素晴らしいユーザー体験をありがとうございます。
これからも引き続き、「最低限日常生活を送るのに必要な筋力を維持する」ための運動を継続していきたい所存です。